監督 特 偉 1915年生まれ、漫画家で抗日漫画宣伝部隊所属。戦後、水墨画アニメの開拓者。1966年から1970年代前半まで続いた文化大革命〔毛沢東らが引き起こした権力闘争〕で苦労したと聞きます。
撮影 段 孝萱
新生中国の土台である農業と、明日をになう子どもたちへの愛情あふれた名作です。
★幼い子どもたちに喜ばれる逸品。保育園や幼稚園で見せたら、笑い声や歓声や拍手が上がることでしょう。
DVD 上海美術電影作品集vol.1 発売元GENEON
中国の至宝 水墨画アニメーション
この作品の主人公であるオタマジャクシは、私たちが池で見かけるそのままの姿、黒い点でしかありません。擬人化されず、顔はなく、ましてアップになってセリフを喋ったりはしません。オタマジャクシたちはただ集団で泳ぐだけですが、その動きが秀逸です。母を見つけたとはしゃぐ様子、まちがいと知ってガッカリする様子など、黒い点でしかないものにみごとに命が吹き込まれ、感情が与えられています。
金魚の赤い尾ヒレが、にじんで透けて優雅に舞う。オタマジャクシしかり、シッポのみがわずかににじんでぼけています。はたして、このぼかしの技術はどのようなものでしょうか。
中国の至宝といわれる水墨画アニメは、高度なアニメーション技術と伝統的な水墨画の見事な融合と結晶です。その技術は、いまだ門外不出の秘技とされています。
硬質なセル画は水を吸い込みません。ゆえに、水墨画調のにじみやぼけ味の表現は不可能と言われてきました。試しに、セルに代えて和紙などに墨や水彩をにじませて描いてみると、にじみはできますが、一枚一枚が不ぞろい(形と濃淡)となり、均質で細やかな動きを表現することはまず不可能なことに気づきます。ところが、中国の水墨画アニメは、このにじみやぼかしを見事にコントロールして細やかで美しい動きを再現しています。奇跡の技術といってよいでしょう。
牧 笛 20分 1963 中国
水墨画アニメの代表作。のどかな田園風景の中で、牛飼いの少年と水牛との心温まる交流を描く。 水牛の背に乗って笛を吹きながら現れた少年は、牛に水浴びをさせて木の上でまどろむ。牛は美しい沼からはなれ大きな滝の下へと行く。目覚めた少年は牛のいないことに気づき、笛を吹いて牛を呼ぶが・・・。
大気の中で揺れる竹林、省略された空間の中でささやく風と水の音、人も牛も小鳥も、共にその中に生かされて存在する小さな命です。壮大な自然の中で生きるものへの賛歌。水墨画の哲学的世界が、見事なアニメーションとなって再現され、無言のうちに私たちの心を捉えます。
水墨画のしっとりとした情感と美しい笛の音。魚や小鳥たちのきびきびとした動きのみごとなアンサンブルに、思わず問わずため息が出てしまいます。私たちの忘れてしまった世界がここにあります。
1988年「琴と少年」(監督 特 偉)の原型といえる作品です。
★この作品は、 1963年に完成するが66年に始まった文化大革命のために世に知られず、文化大革命が終わってから世界に知られて、1980年にアンデルセン賞を受賞します。
★セリフや解説がいっさいないので、想像力を働かせて見るには格好の作品です。すべての人々に見て欲しいが、自然のなかで生活し働くことのなくなった現代の子どもたちには、少々むずかしい作品かも知れません。
DVD 上海美術電影作品集vol.1 発売元GENEON
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