2008年8月27日水曜日



「砂の城」 1977 13分12秒 カナダ 監督:コ・ホードマン 
アヌシー国際アニメーション映画祭グランプリ アカデミー賞短編アニメーション賞
★ 砂から生まれたへんてこな動物たちが、力をあわせて砂の城を作って遊ぶ。やがて、砂嵐がやってきて城も動物たちも砂に埋もれてゆく。砂の動物たちにも、まじめな奴や怠け者などの個性が描き分けられていて、実に楽しい。
★ 驚愕の作品である。思うように形作ることがむずかしい砂をわざわざ用いて、だれがヒトコマ撮りのアニメーションを作ろうと思うだろうか。コ・ホードマンという人にはただただあきれるしかない。しかも、その大変な手法でしか表現しえないであろう主題を見つけて完成させてしまう技量と粘り強さに、凡人の私は脱帽するしかない。
★ コ・ホードマンは、いつも子どもたちの周辺にあるオモチャや小道具を用いて、子どもらしい着想と視点で作品を作り続けている稀有なアニメーターである。
★ 子どもたちがどんな表情をしながら見るのか。子どもたちといっしょに見たい作品です
★ DVD:「NFB コ・ホードマン作品集」 販売元: パイオニアLDC

「ビーズ ゲーム」 1977 5分 カナダ 監督:イシュ・パテル(インド人)
英国アカデミー賞受賞、米国アカデミー賞ノミネート
★ だれでもビーズで遊んだことがあるだろうが、ひとつひとつを糸に通すのもなかなか大変な作業である。それを数十個、数百個もテーブルに並べてヒトコマずつ撮影してゆく。考えただけでも気の遠くなる作業だが、イシュ・パテルはそれで人類史の表現に挑戦した。
★ 打楽器の歯切れよいインド音楽にのって、ビーズで描かれた絵が次々とはじけて変容してゆく。そして、ラストに待っているメッセージが強烈である。
★ 1974年5月、インドで最初の核実験が実施される。この核実験のコードネームは、微笑むブッダ(Smiling Buddha)と呼ばれた。


 小学生高学年から見て、デスカッションして欲しい作品です。
★ DVD:「NFB傑作選 イシュ・パテル、キャロライン・リーフ、ジャック・ドゥルーアン作品集」   販売元:パイオニアLDC
   
「パラダイス」 1984年 15分 カナダ 監督:イシュ・パテル(インド人)
ベルリン映画祭銀熊賞、ロサンゼルス国際アニメーション映画祭第1位、アカデミー賞ノミネート
★ 黒い鳥は、輝くように美しい鳥が王宮で大切にされていることにあこがれて、仲間たちの色とりどりの羽を集めて、装って王宮に侵入する。しかし、真の幸せはあるがままの姿で自由に生きることにあると知る。
★ エピソードは単純だが、イシュは多様な色彩と光を用いて、フイルム上繰り返し露光させるストロボ=多重露出技法によって、きらめくように美しい映像表現に挑戦。美しい音楽にのせて、驚くべき輝く世界を堪能させてくれる。
★ 幼い子どもたちにはむずかしいだろうが、事前にちょっと解説をしておくと、きっと最後までいっしょに見てくれるでしょう。
★ DVD:「NFB傑作選 イシュ・パテル、キャロライン・リーフ、ジャック・ドゥルーアン作品集」  販売元:パイオニアLDC
「クラック!」1981年 20分 監督 フレデリック・バック 音楽監督:ノルマン・ロジェ 
アカデミー賞短編アニメ賞受賞
★ 揺りイスの運命に、変貌してゆくケベック(フランス文化圏)の人々の日常を軽快なテンポで描いている。失われて行くものへの愛惜と、経済開発一辺倒の現代社会への痛烈な皮肉と警告。ラストに登場する現代美術館は、ケベック州に実際にある美術館がモデルで、原子力発電所導入のかわりに建てられたものだという。自然と人間社会のあり方に警鐘を鳴らし、一貫して環境を大切にと呼びかけているバックの心にしみるもうひとつの名作。
★ クラック(CRACK!)とは、伐採された樹の倒れるときの音。
★ 絵柄はやさしくかわいらしいが、幼い子どもには少しむずかしいかも知れない。
★ DVD:『フレデリック・バック作品コレクション」 販売元:Geneon

「四季」 1969 9分 ロシア 監督:イワン・イワーノフ アニメーター:ユージィ・ノルシュテイン 使用曲 チャイコフスキーのピアノ曲「四季」より「秋の唄」「トロイカで」
★ それぞれの馬に乗った男女が雪の中を行く。やがて、別れが待っている。時は移り、男女はトロイカに乗って走る。森林の中を、町や村の中を・・・ただそれだけなのに、チャイコフスキーの名曲に乗せて、万感、胸に迫るものがある。
★ おどろくべきは本作品の美術で、背景から降る雪までがレース網で仕上られている。手仕事が命のアニメーションではあるが、背景や雪までが気の遠くなるような手仕事によって編み上げられていることに唖然とさせられる。それにしても、森林、雪の街、トロイカ、兵士と女、貴族、ロシア的なキーワードにあふれた作品がどうして私たちの心に深く染み入るのか。チャイコフスキーの名曲のためだけではないと思うが、なんだろう、これは・・・。
★ 大人向けの味わい深い作品。小さな子どもたちには、ちょっと退屈な作品となるかも・・・。
★ DVD:「ユーリ・ノルシュテイン作品集」販売元: パイオニアLDC

「ミトン」 1967年 10分 ロシア 監督: ロマン・カチャーノフ
アヌシー国際アニメーション映画祭グランプリ、モスクワ国際映画祭金賞受賞。
★ 「チェブラーシカ」のロマン・カチャーノフ監督作品。犬を飼いたい女の子が、雪の日に遭遇する不思議で心温まる作品。
★ 子どもから見ると、親というのはきわめて冷酷な存在だ。なかなか、子どもの気持ちをわかってくれない。都会で犬を飼うのはむずかしい。それだけに犬を連れ歩く子は誇らしく、飼えない子はますます欲しくなる。カチャ―ノフ監督は、そんな子どもたちの思いを代弁して、見事な作品に仕あげている。布製の人形たちの仕草が、細やかで愛らしさを増幅させている。
万人が楽しめて心やさしくなれる作品だと思うが、犬を飼えない事情のある親にとっては、少々辛い作品かも・・・。

★ DVD:「ミトン」 発売元 Geneon


「地球の果てで」 1999年 8分 フランス 監督:コンスタンティン・ブロンジット
広島国際アニメーション映画祭観客賞

★ これぞアニメーション、動きによる絶妙なタイミングで笑わせる。“奇怪にして滑稽”という形容がぴったりの傑作。
★ 人里はなれた世界で、三角山の頂点にある一軒家が人の出入りの度に左右に傾き、その都度騒動がおきるというバカバカしい設定だが、引き込まれて笑っていると、絶妙な細部の構成を見逃してしまう危険性がある。奇想天外な作品だが、登場キャラクターたちの仕草に生活感があり、作者たちの観察力や綿密な構成力に感嘆させられる。
★ 子どもから大人まで、われを忘れて楽しめます。
★ DVD:「国際アートアニメーションインデックス~広島国際アニメーションフィスティバル傑作選Vol.3」
販売元:TDK